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メタンは強い温暖化効果を有する温室効果ガスであり、国際社会においてはその削減が気候変動対策の重要課題として位置付けられている。特にエネルギー部門は削減ポテンシャルの大きい分野として評価されている。日本のエネルギー供給体制は輸入化石燃料に構造的に依存しているため、国内インベントリのみでは実際の気候変動の影響を十分に捉えることが難しい。このような問題意識のもと、本報告書は世界最大級のエネルギー輸入国である日本を対象に、国内排出中心の既存のメタン管理体制の限界を検討するとともに、輸入化石燃料の生産・輸送過程において発生するサプライチェーン上流部門のメタン排出、すなわち日本の「見えない排出」を定量的に分析した。
エグゼクティブサマリー
日本のエネルギー関連企業のサステナビリティ報告書では、近年、Scope 1・2を中心にメタン排出量 の開示が徐々に拡大する動きがみられており、日本政府もまた、国際LNGサプライチェーンに関するScope 3メタンデータ・イニシアティブであるCLEANを通じて、サプライチェーン全体の情報基盤を強 化しようとする方針を示している。さらに、2027年から段階的に拡大されるサステナビリティ開示制度は、日本におけるメタン関連の情報開示と管理体制整備の必要性を一層高めるものと見込まれる。
一方で、日本は国際的なメタン削減の議論に参加しているものの、国内の制度および政策とは依然として十分に整合しているとは言えない。関連する法制度も主として排出量の把握および施設安全の観点にとどまっている。こうした点から、日本のメタン管理体制は国内排出中心の枠組みを超え、サプライチェ ーン全体を包含する形での見直しが求められる。


主な調査結果
輸入化石燃料のサプライチェーンにおける「見えない排出」
• 日本の輸入化石燃料の上流部門におけるメタン排出量は、原油669 kt-CH4、LNG 378 kt-CH4、石炭584 kt-CH4で、合計約1,632 kt-CH4と推定される。
• 上記の数値は、日本の国内インベントリにおけるエネルギー部門のメタン排出量(約65 kt-CH4)の約25倍の水準である。
国際協力および企業対応の進展
• 日本のGMPへの参加や、CLEANイニシアティブを通じて、政府・企業レベルで協力を強化する取組を進めている。
• INPEXはメタン排出量の開示、削減目標の提示、MRVの一部導入を進めており、ENEOSもLiDAR技術の導入を検討するなど、一部企業ではメタン管理体制の改善に向けた動きがみられる。
メタン削減目標および制度の限界
• 削減目標は2013年比で2030年11%、2040年25%削減にとどまっており、中長期的な削減ロードマップは存在しない。
• 地球温暖化対策推進法は主に排出量を把握する制度であり、国内排出量取引制度ではメタンは対象外であり、CO2のみが対象となっている。
• 個別法令においてメタンは安全管理および廃棄物・畜産管理の対象にとどまっており、気候政策の手段としての機能は限定的である。
制度改善の余地と示唆
• メタンを独立した削減対象として位置付ける法制度基盤を強化し、国際規範と国内政策との整合性を確保する必要がある。
• サプライチェーン全体を対象とする管理体制を構築するとともに、メタン強度の管理、Scope 3開示の強化、低メタン燃料認証などの関連制度について検討が必要である。



