LNG運搬船拡大の裏側:化石ガス経済を支える銀行資金
insights 2026-03-09

LNG運搬船拡大の裏側:化石ガス経済を支える銀行資金

LNGC 101

民間銀行が支えるLNG運搬船拡大の実態 

世界が気候危機への対応を急ぐなか、液化天然ガス(LNG)はいまだに「クリーンな移行燃料」として推進されています。しかし、その裏側では、化石燃料依存を数十年にわたり固定化する巨大インフラが静かに拡大しています。その中心にあるのがLNG運搬船(LNGC)です。 

LNG運搬船は、ガス輸出国と輸入国を結ぶ海上輸送の要です。これらの船がなければ、世界的なLNG貿易の拡大は不可能です。言い換えれば、LNG運搬船は化石ガス経済を支える「浮体インフラ」”です。 

それにもかかわらず、LNG運搬船は気候政策や金融規制の議論の中でほとんど注目されていません。「LNG=クリーン」という単純化された物語の陰で、その気候影響や生態系への負荷、そして何よりもそれを支える金融機関の責任は見過ごされています。 

LNG運搬船とは何か 

LNG運搬船は、マイナス162℃まで冷却された液化天然ガスを海上輸送するために設計された特殊船舶です。天然ガスはメタンを主成分とする化石燃料であり、その生産から輸送、燃焼に至るまでの過程で大量の温室効果ガスを排出します。 

メタンは、20年間で二酸化炭素の80倍以上の温暖化効果を持ちます。LNGは決して「クリーン」ではありません。生産・液化・輸送・使用までを含めたライフサイクル排出を考慮すれば、気候影響は石炭と同程度、あるいはそれ以上になる可能性も指摘されています。 

それにもかかわらず、LNG運搬船は25年から40年の運用を前提に建造されます。つまり、いま発注されている船は2050年代以降も稼働する設計です。これはネットゼロ目標と明らかに矛盾しています。 

需要ではなく資金が拡大を後押ししている 

LNG運搬船の拡大は、必ずしもエネルギー需要の増加によるものではありません。 

実際には、豊富な資金と金融スキームが拡大を可能にしています。 

建造費は1隻あたり約2億5,000万ドル。 
その60〜80%は負債で賄われます。 
20〜30年の定期用船契約が融資を裏付けます。 
輸出信用機関が保証や保険でリスクを引き受けます。 

公的なリスク軽減措置によって、民間銀行は安心して融資を行うことができます。その結果、気候科学がガス需要の減少を示しているにもかかわらず、LNG運搬船は建造され続けています。 

これは市場の必然ではありません。 
金融機関が供給を作り出しているのです。 

International Energy Agency(IEA)の 「Net Zero by 2050」シナリオは、新規の化石燃料インフラは不要であると明言しています。温度上昇1.5℃目標と整合する経路では、世界のガス需要は今後急速に減少しなければなりません。 

それにもかかわらず、金融機関はLNG輸送インフラへの支援を継続しています。多くの銀行は石炭や上流石油・ガスへの制限を掲げていますが、LNG輸送のような中流部門は規制の抜け穴になっています。 

採掘は制限するが、輸送は支援する。 
それは本当にネットゼロ戦略といえるのでしょうか。

Image Credits: Paul Horn, Inside Climate News.

座礁資産リスクと金融リスク 

ガス需要が減少すれば、LNG運搬船は過剰設備となり、稼働率の低下や契約見直し、運賃下落に直面します。運用期間が40年に及ぶ船舶は、気候政策の強化によって座礁資産となるリスクを抱えています。 

長期契約はリスクを除くものではなく、顕在化を先送りするだけです。 

海洋生態系への影響 

LNG輸送は気候だけの問題ではありません。 

  • 水中騒音による海洋哺乳類への影響 

  • バラスト水*による外来種拡散 

  • 温排水による海洋環境への負荷 

  • 生物多様性ホットスポットへの累積的圧力 

たとえば、モザンビーク海峡ではLNG輸出拡大に伴い船舶往来が急増しています。 
モザンビーク北部のガス開発は、地域社会の移転や治安問題が解決されないまま進められ、海洋生態系と沿岸コミュニティに深刻な影響を及ぼしています。 

しかし、これらの環境・社会的リスクは金融判断の中で十分に評価されていません。 

*タンカーや貨物船が荷を積んでいない(空荷)状態で船体を安定・均衡させるため、船底のタンクに積む重しの海水(または淡水)のこと 

Macala and Mangala community protest at Mozambique LNG. ‘The land belongs to Mozambicans, not to France.’ Photo Credit: Justiça Ambiental (JA!)

銀行は中立ではない 

2025年12月10日、世界人権デーに、市民団体はパリの Crédit Agricole 本社前で抗議デモを行いました。同行がLNGバリューチェーンへの資金提供を続けていることへの問題提起です。 

メッセージは明確です。 

銀行は単なる仲介者ではありません。 
LNG運搬船への融資は、化石燃料拡大を可能にする決定的な行為です。 

Image credits: Le Bruit Qui Court

いま問われていること 

LNG運搬船は化石ガス経済のレバレッジ・ポイントです。 
これがなければ、LNG拡大は成立しません。 
資金が止まれば、新造船は建造されません。 

ネットゼロを掲げるなら、LNG輸送を議論の外に置くことはできません。 

株主総会シーズンを迎え、銀行に問われているのはシンプルな問いです。 

化石燃料拡大を可能にする船を支援しながら、気候目標との整合性を主張できるでしょうか。 


次回は、公的金融がどのようにこの拡大を保証し、正当化しているのかを検証します。 

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